海とフネのトリビア(3)

経線儀(Wikipediaから引用)

 

 

こんにちは カトウです。

前回のトリビア【頭の体操】の答えは「30メートル」です。

1分間でノット5つ分の索が繰り出されたとすると、その速力は30m×5/60s つまり 2.5m/s= 5kt

ということになります。

 

さて、距離、速力に続いて今年の締めの話題は「時間」です。

私がまだ駆け出しの青年士官だった頃、我が国海上防衛組織のフネには「経線儀」が装備されていて、フネの中でもっとも動揺が少なく温度湿度の管理も行き届いている(らしい)士官室に据えられた経線儀箱というミカン箱のように大きな箱の中に厳重に納められ、担当の航海科員が毎日温度湿度の記録とゼンマイ巻きをしていました。経線儀などと聞くと何やら天体観測に使う測定器か?と思われるでしょうが、実態は時計です。高い精度を持つ時計を船上で後生大事に取り扱うのは、18世紀にクロノメーターが製作されその後の大洋の航海に不可欠の天文航法計器とされて以来の慣行で、軍艦でも長く引き継がれてきました。その後、LORANに代表される電波航法が天文航法にとって代わり、さらにクォーツ時計の出現などもあってゼンマイ式クロノメーターはその役割を終え、GNSS(Global Navigation Satellite System)全盛の現代のフネでは見かけることもなくなりました。

とは言え、ギリシャ語のクロノス(時間)に由来する「クロノメーター」がなぜ日本語で「経線儀」と呼ばれたのでしょうか? これが実は今日のお話の趣旨に通ずるのです。

大航海の時代も現代も自らの位置を知ることが航海を成就するための基本であることに変わりありませんし、地球表面における一地点を確定するのに緯度と経度をもってすれば足りるというのも紀元前の昔から碩学が唱えていたことでした。とはいえ、自らの位置を知るのに、緯度は両極と赤道という誰がみても明らかな基準があって北極星の高度を測れば容易に得られるのに対し、経度はそもそも基準となる0度線が確定されていませんでした。今でこそ、グリニッジ子午線や測位精度が格段に上がった現代ではIERS子午線が本初子午線になっていますが、大航海時代以来各国はそれぞれに都合のよい子午線を基準として経度を測っていました。19世紀末に国際子午線会議においてグリニッジ子午線を本初子午線とすることに決まったのは、「太陽の沈まない国」として栄華を極めた当時の大英帝国の国威によるものでしょう。

さて、天体は地球の自転に従ってほぼ24時間周期で動くので、ある地点でグリニッジ天文台に遅れること1時間で太陽が正中(天頂を通る大円を通過)したとすると、360度×1h/24h=15度で、その地点は西経15度の子午線上にあると判ります。

ただ、この方式で正しい経度を知るには世界のどこに居ようともグリニッジ時刻を寸分違わず示してくれる正確な時計が必要であり、精度の高いクロノメーターの制作に繋がったのです。

こうして、時刻を知ることがすなわち経度を知ることとなったのです。「経線儀」の名称は、グリニッジ時刻をいつも正しく示すことによって経度を知るよすがとなっている時計を見た明治の日本人がその機能に着目して名付けたものでしょう。

砂時計によってフネの速力を知りそれを積算して推測航法していた時代から、経線儀と六分儀を用いた天文航法の時代、地上局発射電波の到達時間差を利用するLORANを経て、今は衛星局発射電波を利用したGNSSの時代ですが、GNSS においても誤差数メートル以下の正確な測位を実現しているのは高精度の原子時計の技術にほかなりません。

「時を知るものが位置を知る」のは航海術の普遍の原理なのです。

 

【頭の体操】

GNSSによる位置測定で誤差3メートルの精度を実現するために原子時計に求められる精度はどれほどでしょうか?

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